ったく、なーにやってんだコイツは。
こんな一年坊なんぞに追い詰められやがって。
俺は振り下ろした剣を、ヒュンッと軽く払う。
あーあ、こんな本降りの中で呼び出してくれやがってよ。
風邪でもひいたらどうすんだっつーの。
まあひいたことないけど、風邪なんて。
「オ、オードラン男爵……!」
「おいローエン、シャノアに感謝するんだな。お前とお前の後輩がなんかヤバいってんで、急いで俺を呼びに来たんだからよ」
俺はため息交じりに言った後、「あとレティシアにも感謝しろ」と言い加える。
――シャノアの奴はローエンが喧嘩の仲裁に行ったとかで、慌てて俺とレティシアを呼びに来た。
なんかコルシカがリンチにされてて、それを聞いたローエンが得物を持って怒り心頭で走っていったとかなんとか言って。
たぶん、止めないと本気の殺し合いになっちまうと思ったんだろうな。
それを聞いたレティシアは、すぐに現場に向かおうとした。
無論、俺はすぐに彼女を止めたけど。
今から殺し合いが行われるかもしれない場所に、妻を行かせるワケにいかないから。
だから、代わりに俺が行くって言ってさ。
ま~喧嘩なんて適当にどっちもボコして仲裁すればいいか~、くらいに思ってたんだが……どうも俺が思ってたのとは、些か状況が違うらしい。
「つーかローエンお前、その腕大丈夫か? なんか凄い方向に曲がってるけど?」
「だ、大丈夫なワケないだろう! これでも痛みを必死に堪えているのだ!」
あり得ない方向にぷらーんと曲がった右腕を抑え、声を張り上げるローエン。
どうにも綺麗にへし折られたっぽい。
そして……そんなローエンの後ろで横たわる、無惨な姿のコルシカ。
……見る限り酷い怪我だ。リンチにされてたってのは、どうやら本当らしい。
で――そのコルシカをリンチにした、張本人。
「……」
俺はゆっくりと、隻眼をソイツへ向ける。
――腹の底から忌々しい。
レティシアがされたことを思い返す度に、怒りと嫌悪感で吐き気がする。
でも、ようやく会えたな。
なぁ――〝クソ野郎〟。
「お前が……ジャック・ムルシエラゴか」
俺は右手に剣を握ったまま、少しずつジャックへと近付いていく。
「レティシアから聞いたぞ? その汚らしい手で、妻の身体をまさぐってくれたそうじゃねーか?」
「……アルバン・オードラン」
「どんな風に殺してほしい? 斬首か? 串刺しか? 磔か? 火炙りか? ああ、やっぱ選ぶな。お前にはそんな権利すら勿体ない」
「……レティシア・バロウの……あの女性の夫……」
「とりあえず、死ねよ。死んでレティシアに詫びろ。そんでせいぜい地獄で苦しんで、二度とこの世に生まれてくるな」
「……あの女性は……僕のだ」
ジャックはスッと左手を上げ、俺を指差す。
――降り注ぐ雨の中を突っ切るように、腕が飛んでくる。
それも、何本も束になって。
いや、腕というより足? 触手?蔓?
まあ別になんでもいいが、とにかく――ジャックの背後にいる〝化物〟が仕掛けてきた。
「ウザ」
面倒くせぇなぁ、と思いながら――俺はその長く伸びてくる攻撃を回避し、さっきと同じように斬撃を叩き込む。それも連続で。
容易く斬り落とされ、ボトボトと地面に落ちていく化物の腕。
どうやら普通に刃は通るっぽい。
「――で、ソレはなんだ?」
「………………え?」
「お前の後ろにいる、その〝化物〟だよ。なんか緑色した、気色悪いヤツ。お前のペットか?」
今度は俺がジャックの背後を指差して尋ねる。
なんか――見たことないモンスターがいるんだよな、ずっと。
しかも従順なことに、ジャックの傍から離れようとしないし。
ありゃなんだ?
形状が些か不定で、軟体生物っぽくも植物っぽくも見えるんだけど。
まあ、別に殺せば皆同じだから、ぶっちゃけ大した興味なんざないが。
そんなことを思いつつ、俺は何気なく尋ねたのだが――
「――――――」
――ジャックの奴は、両目を引ん剝く。
さっきまでの陰鬱そうな表情とは打って変わり、心の底から驚いたと言わんばかりの顔して見せる。
半ば唖然としたような顔、というか。
「…………なんで?」
「あぁ?」
「お前、なんで……〝■■の落とし子〟が見えるの……?」
「なんでもクソもあるか。そこにいるんだから、見えるに決まってんだろーが」
「う、嘘だ……じゃあなんで……お前の精神は……」
目を血走らせ、信じられないとでも言わんがばかりの顔をして、俺のことを見てくる阿呆。
何故かはわからんが、酷くショックを受けた様子だ。
俺はクルッとローエンの方に首を回し、
「ローエン、お前あのモンスターって見覚えあるか?」
「……? あのモンスター……とは、どれのことだ……? 雨粒が伝っている、透明な奴のことか……?」
「はぁ? お前までなに言って――」
「…………鬱だ……鬱鬱する……」
俺とローエンが会話していると――ジャックは突然身を翻し、フラフラと俺たちの下を去って行く。
同時に、ジャックの背後にいた化物は斬り落とされた複数の腕を瞬時に再生し、バッと飛び上がって校舎の壁に張り付く。
そしてそのまま這うように壁を伝い、屋上の方へと消えていった。
俺はジャックを追いかけて、ぶちのめしてやろうとしたが――このすぐ後に学園の教員たちが駆け付けて来た為に、それは叶わなかった。
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