「見つけたぞ……やっと追い付いた……」
俺は腰の鞘から剣を抜き、足を一歩前へと踏み出す。
一歩、また一歩。
礼拝堂の中をゆっくりと進み、祭壇の方へと近付いていく。
そんな俺の瞳に映るのは――祭壇の上に横たわる、美しい妻の姿。
「レティシア……遅れてゴメンな……。今すぐ、一緒に帰ろうな……」
「――! マ、ママは僕のだ……! 誰にも――!」
「黙れよ」
……ああ嫌だ。
視界に入れるのすら不愉快極まる。
その顔を見るだけで、腸が煮えくり返る。
その声を聞くだけで、頭の中の血が逆流する感覚を覚える。
最悪だ。
アイツが生きているだけで最悪だ。
アイツが妻の傍に立っているというだけで、俺はなにもかもが許せない。
――ジャック・ムルシエラゴ。
我が妻を攫った、クソ忌々しいゴミクズ。
俺から、最愛の人を奪ったクソ野郎。
「よくも……よくも妻を攫ったな……?よくも俺の大事な人に触ったな……? よくもレティシアを傷付けたな……?」
「ヒッ……!」
表情を引き攣らせるジャック。
俺は剣を右手に握ったまま、ユラリと身体を揺らしながらゴミクズに近付いていく。
「――殺してやる。絶対に、今、ここで」
殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
死ね。
一刻も早く死ね。
一秒でも早く死んで――俺の最愛の人に詫びろ。
「……! 〝■■の落と――!」
ジャックはあの正体不明のモンスターを呼ぼうとする。
だが――それよりも早く、俺の剣はジャックの喉仏を断ち斬った。
「――ッ!? カハッ……!」
「黙れって言ったろうが」
一瞬で間合いを詰め、ワザと首を落とさずに喉だけ裂いてやる。
ジャックは喉と口から血反吐を吹き出し、声を出せなくなった。
「お前……ローエンの後輩の喉を潰してたよな? 喉を潰されて、マトモに声を出せなくなる気分はどうだ? あぁ?」
ざまぁない。
意趣返しだと思うんだな。
俺は別にコルシカに対してなにか思い入れがあるワケじゃないが……ローエンの無念を晴らすくらい、やってもいいだろう。
「ア゛……ぎャ……ッ!」
ジャックは鮮血が噴き出す喉を左手で押さえながら、右手の〝本〟を掲げようとする。
――〝魔導書〟。
奴が持つ本がソレであると、俺は本能的に嗅ぎ取った。
そうでもなきゃ、こんな時悠長に本なんて構えないだろう。
いつの間にそんなモンを手に入れたのか知らんが、
「阿呆が」
ジャックが〝魔導書〟を使ってなにかをしようとする前に――俺は奴の胴体目掛け、刃を横一閃に振り抜いた。
「ア゛――――」
――ジャックの身体が両断され、上半身が宙を飛ぶ。
そしてやや離れた場所にドサッと落下し、周囲一帯に赫赫とした鮮血をぶちまける。
ほんの数秒遅れて、その場に残った下半身が力なく倒れた。
「……地獄に落ちろ」
惨めで呆気ない最期だ。
コイツの死に様としては些かぬるいし、本当ならこんなクソ野郎はもっと痛めつけられて阿鼻叫喚の中で死ぬべきだ。
でも……そんな下らないことに拘るより、俺には妻の方が大事だからさ。
早く、一緒に帰ろう。
「レティシア――」
俺は祭壇の上に横たわる妻に歩み寄ろうとする。
――しかし、
「マ〝……マ〝マ〝……」
隻眼の視界の外で、ズルリと這う音がする。
そして俺がもう一度視線を戻すと――千切れたジャックの上半身が血だらけで地面を這いながら、〝魔導書〟を必死に掲げようとしていた。
「手前――」
俺は剣を握り、今度こそジャックにトドメを刺そうとする。
だがその直前に、なにかが轟音と共に礼拝堂の天井を突き破って落下してくる。
――あの時ジャックの傍に佇んでいた、あの正体不明のモンスターだ。
モンスターは触手を伸ばしてジャックの上半身を掴むと、自らの下に引き寄せて抱きかかえる。
「ウ〝フ……フ……」
まさに絶命する寸前、ジャックは歪に笑う。
直後に〝魔導書〟が怪しく発光すると――まるで脱皮でもするかのようにモンスターの身体が裂け、中身が露出。
その中身は口らしき部位から、膨大な魔力の渦が吐き出す。
渦は洪水のように礼拝堂の中に溢れ――俺やレティシアを飲み込んだ。
▲ ▲ ▲
「――アレは……」
アルバンが偽ジャックと相対してから少し後。
ようやく〝サタニア教会〟にユーリが到着する。
そんな彼の目に最初に映ったのは、天井が破壊された礼拝堂の姿。
明らかに、その中でなにかがあったことは明白であった。
――きっと礼拝堂の中に、オードラン男爵やレティシア・オードランもいる。
そう確信したユーリは、警戒しながら礼拝堂へと近付いていくが――
「……? これは……」
礼拝堂の中へ入ろうとした彼の足を止めたモノは、大きな入り口を完全に塞ぐ魔力の壁だった。
その壁からは膨大な魔力と、得体の知れない不気味なオーラが漂っている。
だがどうやら結界の類ではないらしく、少なくとも魔力の壁を通って内部には入れるらしいと、すぐにユーリには理解できた。
「……」
一瞬ユーリは戸惑い、躊躇する。
あまりにも不穏な雰囲気を感じ取ったから。
しかし、
「いや――ここで臆しては、スコティッシュ家の名が廃る」
ユーリは意を決する。
ここで退いてはならないと。
ここで退いては――兄の二の舞になってしまうと、そう思って。
そして――ユーリは魔力の壁の中に、足を踏み込んだ。
新年あけましておめでとうございます!
2025年もよろしくお願いします!!!
(新年一発目に投稿するタイトルが物騒過ぎるのは許して……泣)
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