《エステル・アップルバリ視点》
『決まったー! スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセンのエルボー・ドロップーッ!』
――会場に響き渡る、お熱の入った解説者の声。
リングの上では二人の選手が血沸き肉躍る死闘を繰り広げ、観客の皆様はどいつもこいつも〝熱〟に飲まれてやがります。
「ウィーッ!!!」
『おおーっとォ! ヨハンセンが右腕を天高く突き上げたァ! 勝利宣言だァッ!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
ガチムチおマッチョなヨハンセンのパフォーマンスに、会場はおムードはさらにエキサイト。
堪らずリングの傍へと駆け寄る観客たちに、解説者は『お下がりください! 大変危険ですのでお下がりください!』と注意喚起。
このままだと場外乱闘すら始まってしまいそうなおムードですわね。
そんな白熱した戦いに、私も思わず――
「うおおおおおッ! やれー! 殺せー! ですわあああぁぁぁッ!」
なんて、観客席から大声を張り上げてしまいましてよ。
そしていよいよ試合も終盤。
リングの上で満身創痍となり、フラフラと棒立ちになる相手選手に対し――
『――決まったアアアアアッ! ヨハンセンの必殺技、ウエストエンド・ラリアットが炸裂ウウウゥゥゥッ!!!』
ヨハンセンの丸太みたいにぶっとい上腕が、暴れ牛の突進が如き勢いで直撃。
彼の十八番にしてミラクルパワーの必殺技、ウエストエンド・ラリアット。
それをモロに受けた相手選手は、首の骨が折れたんじゃないかしらと思う勢いでリングマットに叩き付けられ、完全にダウン。
目の前に星が飛んでいるご様子で、そのまま審判にカウントを取られ――リングの上にお沈みになります。
「ウィーッ!!!」
『試合終了オオオォォッ! 勝者、スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセン! この試合を制しましたッ!!!』
「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」」」
「ぃやりましたわー! ヨハンセン、カッコいいですわあああぁぁぁッ!」
会場は大歓声に包まれ――最高のテンションの中で、試合は幕を閉じたのでした。
「――はぁ~、面白かったですわぁ。やっぱりヨハンセンの興行試合は、何度見ても超エキサイティングですわねぇ!」
試合の帰り道、私はほっこり満足気な顔をして城下町の中を闊歩します。
とってもいい試合でしたわ……。
私、スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセンの大ファンなんですのよね……。
鍛え抜かれたガチムチマッチョな肉体にお茶目な口髭、そしてトレードマークのつば広帽子。
一見するとベビーフェイスなのに、一度リングインすればその非道っぷりは凶乱にして傍若無人。
入場時は当たり前のようにぶっといロープを振り回し、自慢の肉体で相手をバチボコにぶちのめしたかと思えば、果ては机や椅子を凶器にして乱入してきた観客すらもぶん殴り始めるという……。
なんて素敵……!
弾けろ筋肉! 飛び散れ汗!
やはり力こそおパワー! おパワーこそ力!
スタンリー〝サンライズ〟ヨハンセンこそ、私の理想の王子様でしてよ!
「ホホホ、やっぱり白馬に乗った王子様っていうのは、ああいう方でなくっちゃいけませんわね! ――って、あら?」
ルンルン気分で道を歩いていた私でしたが――ふと視線を路地裏の方へと移します。
すると、見かけてしまいましたの。
▲ ▲ ▲
――エステルが路地裏でなにかを見かける、少し前。
城下町の中を、一台の馬車がゆっくりと進んでいた。
「いいですか――アル・マッラ王子」
馬車の中で、精悍な顔立ちの褐色肌の男が口を開く。
彼の名前はコピル・バタライ。
年齢は二十代前半。
ヴァルランド王国の民とは雰囲気の異なる異国の服をまとい、頭には幾何学模様の刺繡が施されたつばのない帽子を被っている。
さらにくの字に曲がった独特な内反りの大型ナイフを腰に携行しており、その出で立ちや隙のなさから、この男が戦士であることを疑う者はいないだろう。
「何度も申し上げておりますが、あなた様は『ネワール王国』の未来を背負ってこの国へとやって来たのです。ですから、国家の代表らしい態度で以て……」
「ねぇ見てよコピル! 背の高い家がこんなにたくさん! 凄いなぁ……!」
クドクドと説教染みたことを言うコピルに対し――彼の反対側の座席に座る幼い少年は、窓の外の景色に目を奪われていた。
その少年はとても華奢で背が低く、一見しただけでは少年なのか少女なのか判別が付かないほどの端正な美貌の持ち主。
コピルと同じく褐色の肌をしているが、身にまとっている服装はより絢爛で民族的。
身体のシルエットを覆い隠すようなデザインのゆったりとした布服をまとって、首からは幾つかのネックレスを下げている。
異国の服装とはいえ、ヴァルランド王国の民でもすぐに〝おそらく高貴な身分の人物〟と推測できるような格好だ。
「町のほとんどが石畳で綺麗に舗装されてるし、皆綺麗な服を着てるし……やっぱり大きな国の大都会は違うなぁ!」
「……アル王子」
「あ! あのお店はなにかな!? 見たこともないモノが色々売ってるよ! 後で寄ってみようよ!」
「アル王子、お願いですから私の話を聞いてください」
コピルは「ハァ~」とため息を漏らしつつ目頭を押さえ、実に悩ましそうにしながら言葉を続ける。
「いいですか? あなた様は観光でこの国へ来られたのではなく、〝花嫁〟を探しに来たのです」
道中でこの話をするのは、もう何度目だろう……とコピルは自分で自分に呆れる。
だが言わねばならない。言って自覚して貰わねばならない。
今回この王子の〝花嫁〟をヴァルランド王国から迎え入れられるかどうかで、ネワール王国とヴァルランド王国の今後数十年に及ぶ関係は決まってしまうのだから。
もっとも、幾ら王子と言えどまだ齢十歳の幼子にそんな重責を背負わせるのも、酷な話ではあろうが……とコピルは些か後ろめたさも覚える。
だが彼は心を鬼にし、目頭から指を離して再び幼いアルの方を見る。
「ですから、ヴァルランド王国の民に笑われぬよう毅然とした態度で――って、あれ?」
――言葉の途中、コピルは我が目を疑った。
何故なら、ほんの数秒前までそこにいたはずの王子の姿が、忽然と消えてしまっていたから。
同時に馬車の乗降ドアが僅かに開いており、キィッという軋み音を無情に鳴らしている。
「お…………王子!? アル王子!? 一体いずこへ――ッ!?」
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