「あら、いらっしゃ~い♥ お久しぶりねアルバンちゃん、レティシアちゃん」
王城へと着いた俺たち夫婦を、以前と同じ一室である謁見の間で迎え入れてくれるアルベール国王。
相変わらず、腹の底が見えない魔性の笑みだ。
「どーも。で、今日はまたなんの用です?」
「まあまあ、とにかく座んなさいな。今日はいい茶葉入ってるわよぉん♪」
茶葉――と聞いて「それは楽しみですわ」と我先にと対面するソファに腰掛ける我が妻レティシア。
彼女も彼女で、相変わらず紅茶に目がない。
そんな妻の姿も可愛い……。
まあでも、悔しいが確かにアルベール国王が淹れてくれる紅茶は美味いんだよな……。紅茶に詳しくない俺でも「美味い」ってわかるくらいだもの……。
しかも使用人にやらせるんじゃなくて、自分で淹れてくれる辺りこだわりがあるみたいだし。
それだけいい茶葉をストックしておけるのは、流石国王と言うべきか……。
レティシアに続くようにソファへと腰掛ける俺の姿を見たアルベール国王は、
「――聞いたわよぉ、今度は学園の新入生に厄介なのが紛れ込んでたんですってね」
俺たちに紅茶を振る舞う準備をしながら、そう切り出す。
「……はい、間違いなく〝薔薇教団〟の手の者でしたわ。もう少しで大変な事態になるところでした」
「ま、きっちり仕留めておきましたけど。でも〝邪神〟だかなんだか連れ回してて、ウザいったらなかったですよ、マジで」
――〝邪神〟。
その単語を聞いた瞬間、アルベール国王の手が一瞬止まる。
「……〝サタニア教会〟でなにがあったのか、報告は全て聞いたわ」
彼は改めて手を動かし、ティーカップに紅茶を注いでくれると、自らの手で俺たちの前に運んでくれた。
「アルバンちゃんは、よく可愛い奥さんを守ってくれたわね。流石は英雄だわ」
「夫として当然のことをしたまでです。……それより――」
「それよりどうして〝邪神〟のことを自分たちに教えなかったのか――かしら?」
アルベール国王はわかり切った様子で、俺の言いたい台詞を横取りしてくる。
「〝薔薇教団〟については教えたじゃない。新世界の神と交信しようとしてるカルト宗教だ~って」
「いや、そこだけ聞いてまさか本物の〝邪神〟が出てくるなんて思わんでしょーが」
びっくらポンですよマジで、と言う俺に対して、若干不服気味な顔をするアルベール国王。
「ならアタシが〝邪神は実在する〟って言ってたら、あなたたち信じたかしら?」
彼の言葉に、俺は「う……」と言葉を詰まらせる。
それはまあ……素直には信じられなかったかもしれんけど……。
「ジャック・ムルシエラゴの偽物は、はた迷惑にも〝邪神〟の力を使って世界平和を目論んでいたそうじゃない」
「……はい。アレは――とても恐ろしい力でしたわ」
レティシアが答える。
アルベール国王は少し悩ましそうにため息を漏らし、
「〝王家特別親衛隊〟に頼んで奴らの行方は全力で追っているけど、もうぜ~んぜん足取りが掴めないの。ホント、不気味過ぎるくらいにね」
「「……」」
「この国の中にいながら、アタシたち王家の人間の目を掻い潜るなんて至難の業よ。それも〝邪神〟様の力のお陰なのかも――なんちゃってね」
ややおどけるように言った彼は、自らの分のティーカップを指で掴む。
「でも、一つハッキリした。奴らはあなたたち夫婦――というよりレティシアちゃんを狙ってる」
「……私の身体を母体とし、新たな〝邪神〟を生み落として、この世界に平和をもたらす……それが彼らの狙いでしたわ」
「世界中の人間を皆殺しにするのが世界平和だなんて、皮肉もいいトコだけど。でもそんなことやらせない」
ティーカップを持ったアルベール国王は紅茶を一度口に含み、コクッと嚥下。
そして鋭い目つきとなり、
「余所の国は知ったこっちゃないけどね、この国の人間はアタシのモノよ。臣民たちがアタシにくれる富も名声も権力も、なにもかも」
「だから勝手に皆殺しにされちゃ困る――ってワケですか」
「当然。アタシってば強欲だから♪」
俺の言葉に対し、不敵な笑みを交えつつ答えるアルベール国王。
ホント、この人も相変わらずだよ。
それにたぶんだが――〝薔薇教団〟について、まだなにか隠してる。
言わないのか言えないのか、それはわからんが。
ま、興味ないけど。
俺の夫婦生活を邪魔してくるなら、なにもかもぶっ潰すだけだし。
「ヴァルランド王国は今後〝薔薇教団〟――『薔薇色の黄昏』を正式に危険組織に認定。徹底的に排除と根絶を進めるわ。王立学園にもそれ相応の警備を付ける」
「そりゃ心強い。少しは役に立ってくれるといいですけど」
皮肉交じりに俺が言うと、「ア・ル・バ・ン」とレティシアが俺の脇腹にドスッと肘を突き込んでくる。
俺の妻、やっぱり軽率な発言を見逃してくれない……。
でもそこもいい……。
アルベール国王は微笑して軽く受け流し、
「あなたたち夫婦は要人として警護対象となるけれど、場合によっては力を借りる時がくるかもしれない。その時はよろしくねぇ」
「はい、勿論ですわ。私たちでよろしければ」
実に誠実な態度で、レティシアは答えた。
すると――その直後、俺たちがいる部屋のドアが〝コンコン〟とノックされる。
『国王様、ネワール王国の使者の方々がお見えです』
「ああ、どうぞどうぞ~。入って頂いて」
アルベール国王がドアの向こうの使用人に答える一方、レティシアは不思議そうに目を丸くした。
「ネワール王国……?」
「そ、実は今日レティシアちゃんたちを呼んだ理由はコレもあるのよん。救国の英雄様を、ぜひ余所の国にご紹介したくってねぇん♥」
ニヤリと笑うアルベール国王。
次の瞬間、部屋のドアがゆっくりと開く。
そして――背の低い褐色肌の美少年が姿を現した。
悪役夫婦VSオネェ国王VSショタ王子、ファイッ!٩(◦`꒳´◦)۶
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