「――それでは皆さんお待ちかね、中間試験の内容ついてご説明致します!」
教壇に立ったパウラ先生が、嬉々とした表情で話し始める。
俺たちFクラスのメンバーは、そんな彼女へ真剣な面持ちで耳を傾ける。
「中間試験は〝筆記〟と〝実技〟の二つが行われます。筆記に関しては学園生徒として最低限の学力を求められるだけなので、皆さんなら問題ないでしょう!」
「へえ……ってことは実技試験の方が重要視されるってことか?」
「はい! だって筆記試験なんてつまらないじゃないですか!」
俺の質問に対しニコニコ笑顔で答えるパウラ先生。
うわー、なんかとんでもないこと言っちゃったよこの人。
筆記試験がつまらないって、それ教師がハッキリ言っていい台詞なのか……?
相変わらず頭が闘争に支配されているというかなんというか……。
いやまあ、確かにつまらんとは思うけどさ……。
「勿論筆記でも各クラスの平均点でポイントの増減は発生しますが、皆さんの学力なら他クラスとの大きな差は生まれないでしょう! ご安心ください!」
「……逆を言えば、実技試験の結果次第で差がつくってことね」
レティシアの言葉に「その通り!」とパウラ先生は返す。
「そして皆さん気になるであろう実技の内容は……クラス対抗〝防衛ゲーム〟となります!」
「防衛ゲーム……?」
「はい、〝防衛ゲーム〟です! 学園が指定したダンジョンで二つのクラスが攻撃・防衛に分かれ、旗を奪い合ってもらいます。攻撃側は傍を自陣まで持って帰れば勝利、防衛側は制限時間内に旗を守り切るか攻撃側を全滅させれば勝利です!」
〝防衛ゲーム〟――なるほど、確かにある意味では総力戦だな。
個々の戦力はもとより、メンバー全員の連携が大事になってくる。
それにどう攻めるか・どう守るかの戦略の立て方も重要だし、頭脳・判断力・対応力も求められるだろう。
さながら戦争の縮図、少数精鋭の部隊同士による局地戦。
学園側――というよりファウスト学園長の狙いは、それを経験させることだろう。
いざ争いが起こった時、なにもできない無能な貴族にならないようにと。
あのジジイの考えそうなことだ。
「ダンジョンには『決闘場』と同じ特殊な魔法陣が刻まれていて、剣で斬り合おうが魔法で吹っ飛ばし合おうが死ぬことはありません! なので全力で相手を叩き潰してください!」
「フン、面白い」
今度はイヴァンが鼻を鳴らした。
「それで、その〝防衛ゲーム〟というのは全クラスがトーナメント方式でぶつかるのか?」
「いいえ、今回は中間試験なので一クラス対一クラスに限定されます! あくまで行われるのは一戦のみですが、その中で素晴らしい戦いや戦術を見せた方により多くのポイントが配分される仕様です!」
「なるほど……勝ち負けだけではなく〝どう戦うか〟も見られると」
「そういうことです! 途中経過は全て教師たちに中継されますので、意識するように! 筆記試験の千倍は頭を使って、美しく戦ってくださいね!」
……楽しそうだなぁ、パウラ先生。
もう完全に身体が闘争を求めてるだろ。
露骨に生き生きとしてるもんな。
なんて思っていると、ふとパウラ先生は思い出したかのようにポンと手を叩き、
「あ! それと――今回の中間試験は外部の視察も入るそうです!」
「視察……?」
「なんでも〝ぜひ視察したい〟と申し入れがあったそうで……ウィレーム・バロウ公爵という人物から」
「「「――!?」」」
――その名前を聞いて、Fクラスのメンバーは全員驚愕の表情となる。
まさかこのタイミングで聞くとは思いもしなかったからだ。
当然レティシアも目を丸くし、
「お……お父様が……?」
「はい、一応他にも何名か貴族の方が視察されるそうですよ!」
「……」
沈黙するレティシア。
一体どういう風の吹き回しだ……?
マウロの一件以降、レティシアに会おうともしなかったバロウ公爵が視察なんて……。
ヨシュアの奴がなにか言ったか?
それともオリヴィアさんが尽力してくれたのかも?
わからんが、いずれにしても――
「いい機会ですわッ!!!」
今度はエステルが椅子から立ち上がる。
ダン!と勢いよく。
「レティシア夫人とオードラン男爵がどれだけクッソおラブラブか、お父君に見せつけて差し上げればいいんですのよ!」
「ちょ、ちょっとエステル……?」
「糖度1000%なお二人のイチャラブっぷりを見せ付ければ、例えお父君であろうとも胸焼けでおゲロをぶちまけたくなること必至! 確実にお二人の仲を認めてくださいますわ!」
「そ、そういうものかしら……?」
「間違いなくてよ! もしそれでも認めようとしないってんなら、この私が〝理解らせ〟て差し上げます!」
おい待て、なにをわからせるつもりだ。
仮にも相手はバロウ公爵家の当主だからな?
もしなにか問題起こしたら、それはそれで面倒くせぇことになるぞ?
いや正直に言えば俺だって〝理解らせ〟てやりたいが、腐ってもレティシアの親だからな。
極力、バロウ公爵との荒事は避けたい。
レティシアが嫌がるから。
……もしレティシアが殺したいほど父親を憎んでいたなら、俺も今とは違う対応をしていたかもしれない。
ハッキリ言って、妻の幸せのために義父を殺すなんて俺はなんの葛藤もないし。
だが彼女は父親を、バロウ公爵をそこまで憎んではいないのだ。
今でも彼女なりに肉親の情を持っている。
俺はなるべく、レティシアが悲しむような真似はしたくない。
だから我慢する。
問題も起こさない。
「おいエステル、意気込むのはいいがバロウ公爵に手を出すのは駄目だ。これは〝王〟としての命令、いいな」
「チッ、〝王〟が言うなら仕方ありませんわね……」
「でもさ~、いいアイデアじゃない?♠ レティシアちゃんのパパに見せつけるって♪」
続いてラキがニヤニヤと笑いながら発言。
「ヨシュアが言うには、アルくんがレティシアちゃんを不幸にしてるって思われてるんでしょ? だったら今のままで十分幸せだって伝えるのは、悪くない方法だと思うよ?♢」
「それは……そうかもしれんが……」
「離縁させる気を削ぐために、できることはなんでもするべきだと思うな♥ なんならウチがパパ活してきてあげよーか、クフフ♫」
「それだけはやめろ。一番話がややこしくなるから」
「はーい、〝王〟が言うなら控えまーす♡」
本当にコイツは……。
冗談で言ってるのかマジなのか、わかったもんじゃないな。
――とはいえ、今の俺たちを見せるいい機会であることには違いない。
よし、いっちょやってやるか。
「パウラ先生、質問」
「はいアルバンくん! なんでしょう!」
「実技試験の〝防衛ゲーム〟って、戦うクラスを指名できたりするのか?」
「いい質問ですね! 実は既にFクラスは対戦相手としてCクラスから指名を受けておりまして、こちらの返答次第で決定となります!」
「上等だ。――レティシア」
「な、なにかしら……?」
「がんばろうな」