紆余曲折――というか面倒くせぇことが色々とあったが、中間試験は無事に幕を閉じた。
結果はFクラスがCクラスに完全勝利。
それを踏まえてパウラ先生を始め教師陣によって採点が行われ、後日ポイントの分配が行われるだろう。
ウィレーム公爵を誘拐した〝串刺し公〟に関しては、ファウスト学園長が「学園の生徒が学園内で公爵を攫うなど言語道断」と声明を発表。
犯人逮捕と再発防止の徹底を約束した――が、こんなのは舌先三寸だろうな。
ウィレーム公爵を攫った〝串刺し公〟の背後には、王家が付いている。
この国を統治するヴァルランド王家の権力は絶対。
如何にファウスト学園長やウィレーム公爵と言えど、真っ向から王家に逆らうのは分が悪すぎる。
ウィレーム公爵が〝串刺し公〟を逃がしたのだって、真犯人へ脅しをかけつつ、王家との本格的な対立を避けるのが主目的だったみたいだし。
中間試験の視察に参加した貴族たちも、事を荒立てて王家に睨まれるような真似は避けるはず。
そんなワケだから、まったく阿呆らしいが――世間に向けた体裁だけ整えておいて、後は政治で解決って流れになるだろう。
顔が割れた〝串刺し公〟だって本当に捕まえる気があるのか怪しいな。
……まあ、次会ったら絶対に殺すが。
俺が、この手で。
王家がどうとか政治がどうとか、知ったこっちゃない。
アイツはレティシアを執拗に狙い、挙句その父親にまで手を出した。
それはつまり、アイツは俺に殺されたいってことだ。
だから今度こそ、お望み通り殺す。
絶対に。
それで王家が出張ってくるなら――滅ぼすまでだ。
なにもかも。
レティシアのために。
……ま、今はそんなことは一旦置いておこう。
全てが終わった後――俺とレティシア、そしてヨシュアとウィレーム公爵は、一堂に会していた。
「ウィレーム公爵、ご無事でなによりです」
「うむ、心配をかけたな。私はこの通りなんともない」
ウィレーム公爵に怪我がなかったことに安堵するヨシュア。
続けて、
「ヨシュアよ……私に伝えることがあるのだろう?」
「……はい」
ヨシュアは頷き、小さく息を吸う。
「約束通り、このヨシュア・リュドアンはレティシア・バロウとの――いえ、レティシア・オードランとの婚約を解消させて頂きます」
面と向かって、レティシアとの婚約破棄を伝えるヨシュア。
それを聞いたウィレーム公爵は、フッと笑う。
「まさか本当にその台詞を聞かされるとはな……。つくづく、人生とはままならないものよ」
彼は続けて、レティシアの方を見る。
「レティシアよ。こうして直接お前と会うのも、久しぶりだな」
「ええ。お久しゅうございますわ、お父様」
「お前は変わったよ。強くなった。それと母さんによく似てきたな」
「お母様に、ですか……?」
「そうだ。お前にほとんど母の記憶はないであろうが、彼女も気高い女性だったのだよ」
思い出すように言うウィレーム公爵。
その表情は、どこか憑き物が落ちたようでもあった。
「……私はお前をマウロに嫁がせたことを、今でも心底後悔している。不幸な生き方しかさせてやれない、そんな人生を与えてしまったと」
「……」
「こんなのは言い訳にしかならんが……お前をオードラン男爵へ嫁がせたのも、最悪の形での破滅を防ぐためだった」
「不幸で憐れな女を演じてさえいれば、これ以上貴いお方に目を付けられることはないはずだ――そう思って、でしょう?」
「……そうだ」
「お父様は、ずっと私の身を案じてくれていたのですわよね」
「娘の心配をしない父親がどこにいる。……もっとも今日の一件で、私のそれは自己満足でしかなかったと理解させられたがな」
彼はややバツ悪そうに答えた。
ああ――やっぱりウィレーム公爵は、心の中でレティシアを心配し続けていたんだな。
ヨシュアと会談した時、話を聞いて「アレ?」って思ったんだよ。
無理矢理レティシアとヨシュアを婚約させたのって、なんか利害だけって感じじゃないよなって。
ヨシュア以上に、ウィレーム公爵の方がレティシアを守ろうとしてるよな――って。
そもそもの話、バロウ公爵家がリュドアン侯爵家と繋がりを持つメリットはあまりない。
にもかかわらず婚約の話なんて持ち掛けたのは、リュドアン侯爵家なら少しでも王族の影響を遠ざけられると踏んだからだ。
それだけ王国騎士団の権力って強いからな。
故に周囲からなんと言われようと、婚約を強行した。
これってよっぽどレティシアを大事に思ってないとやらないよな、絶対。
実はウィレーム公爵って大概に親バカだと思う。
ただ不器用な頑固親父ではあるけど。
でもわかりますよ……。
レティシアって可愛いですもんね……それこそ目に入れても痛くないくらい……。
うんうん、わかるわかる……。
意固地にもなっちゃうよね……。
だってレティシアだもの……。
などと一人で納得していると、次にウィレーム公爵の視線は俺へと向けられる。
「ウィレーム家の公爵令嬢が〝最低最悪の男爵〟に嫁いだとなれば、これ以上の不幸はない。そう思っていたが――」
「お父様の目にはどうお映りになりましたか? 彼の姿は」
「……いくらなんでも、〝噂〟と違い過ぎるのではないかね?」
「いやぁ、恐縮です」
ちょっと照れる俺。
でもその後すぐに「アルバン、あまり調子に乗らないで」とレティシアに怒られてしまった。
悲しい。
「この目で直接見なければ、永遠に理解できなかったであろうが……今なら問える」
ウィレーム公爵は真っ直ぐにこちらを見つめ、
「オードラン男爵よ、答えてほしい。キミは我が娘を――この子を破滅と不幸から救うと、誓ってくれるか?」
俺に問う。
誓ってくれるか、だって?
そんなの――答えは一つだろう。
「誓います。俺の人生の全てを懸けて」
俺もウィレーム公爵を真っ直ぐ見つめ返し、一切の淀みなく言い切る。
むしろ、俺の人生はレティシアのためにあると言っても過言じゃないんだ。
もう今更って感じだよな。
「……ああ、そうか。今ようやく、安心したよ」
とても穏やかな表情で、ウィレーム公爵は言う。
そしてこちらに歩み寄ってくると、手を差し出してくれる。
「婿殿よ、キミにレティシアを託す。この子を……よろしくな」
「ありがとうございます。任せてください、お義父さん」
互いに笑顔となって、ガッチリと握手し合う俺たち。
これは、ウィレーム公爵がようやく俺を――俺とレティシアを〝本物の夫婦〟として認めてくれた瞬間だった。
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