「あぁ~~~、平和だなぁ……」
学園中庭の芝生の上に寝転びつつ、晴々とした青空に向かって俺は呟く。
平和だ。
本当に平和だ。
それに暇で退屈。
急を要することとか面倒くさいこととか、特にない。
つまりこの瞬間だけは、ぐだぐだしててもOK。
最高だ。
素晴らしい。
まさしくTHE・怠惰。
毎日がこうであればいいのに……。
「でも、そんなのレティシアが許さないからなぁ」
よっこらせ、と俺は草むらの上で上半身を起こす。
――中間試験が終わり、ウィレーム公爵から正式に娘婿と認められてから、一ヵ月が経過。
ウィレーム公爵を攫った〝串刺し公〟と対峙し、奴の仮面を斬り裂いてからというもの、レティシアを狙った事件や嫌がらせはパタリと止んでいた。
お陰で俺たちは平和で静かで幸せな、そんな絵に描いたような学園夫婦生活を過ごせている。
いよいよ俺たち夫婦を引き裂くなんて無理と理解したのかもな。
結構なことだ。
ま、それはそれとして――
「ヒソヒソ……見て、オードラン男爵よ……」
「ヒソヒソ……今日も中庭で寝転んでるわ……」
「ヒソヒソ……やっぱり顔は悪くないですわよね……」
……相変わらず、遠目でヒソヒソ話をしてくる奴らは絶えない。
なんなら中間試験の後に増えたまである。
ホントにさ~、やめろよな?
そういうの失礼だと思わないワケ?
やられてる側はいい気分じゃないんだからな。
なんて思いつつも、別に怒ったり注意したりはしないけど。
だって面倒だし。
それに俺が誰かとトラブったら、レティシアに迷惑がかかるしさ。
だから何食わぬ顔で聞き流すのが一番。
王立学園に入った時と変わらず、無視無視。
とはいえ――
「ヒソヒソ……確かにイメージ通りだわ……」
「ヒソヒソ……あの本って、本当によく書けているのね……」
「ヒソヒソ……先生ったら、早く新作を出してくださらないかしら……!」
……なんだろう。
なんか、以前と比べて陰口の囁かれ方が変わったような気が……。
そりゃ確かに、中間試験でCクラスに勝利したお陰で、俺たち夫婦やFクラスの評判は確実に上がった。
加えてヨシュアが俺やレティシアのことを「あれこそ理想の夫婦だ」と方々で言っているらしく、頼んでもいないのにイメージアップに貢献してくれている。
それと何故かは知らないが、Cクラスの他のメンバーたちもFクラスメンバーのことをべた褒めしているとか……。
なんか知らんが認められたらしい。
まあ中間試験じゃ各々活躍してたのは事実だし。
そんなこともあって、前よりも露骨に悪口を言う奴は少なくなった印象。
だから前と比べて学園内でも居心地はよくなったが……。
なんか、むず痒さを感じるというか……。
そんなことを思っていると、
「――アルバン、お待たせ」
最愛の我が妻、レティシアがやって来る。
いつ見ても可愛い。
それに綺麗だ。
やっぱレティシア以上に魅力的な女性なんていないよなって。
つくづく、俺はそう思うよ。
素敵。超最高。
「おかえりレティシア。やっぱりキミは綺麗だな。凄く可憐だよ」
「あら、ありがとう。……でも、今朝も一言一句まったく同じ台詞を聞かされたわね」
「だって綺麗なものは綺麗だからさ。俺がそう感じたら、その瞬間に、いつでもキミに言ってあげたい」
「もう……そういう恥ずかしいことを、普通に外で言うのは控えてほしいのだけれど」
ほんのちょっとだけ頬と耳を赤らめるレティシア。
う~ん、やっぱり可愛い。
「ところで、パウラ先生の話ってなんだったんだ?」
「身辺調査よ。お父様の一件があってから、なにかトラブルはないかって。一応心配してくれているみたい」
ほーん、あのパウラ先生がねぇ。
ファウスト学園長から目をかけておくようにでも言われたのかね。
学園内であんな事件が起こった後なら、まあ当然かもしれんが。
……あれ?
じゃあ俺は?
俺も一応関係者というか、当事者なんですけど?
なんだろう、心配されてないのかな?
いやまあ別に心配なんていらんけど。
俺、強いし。
レティシアのためなら誰にも負けんし。
邪魔する奴は斬って捨てるだけだし?
あ、だから心配いらないって思われてんのか。
なんか納得したわ……。
「それと、中間試験の結果を踏まえて、これからFクラスの授業内容や訓練内容をどう調整するかってお話も少しされたわね」
続けて説明するレティシア。
もう一ヵ月前の出来事となった中間試験。
――またの名を〝試験戦争〟。
結果はFクラスの完全勝利で、誰の目から見てもCクラスを完封していたことから、大幅なポイントの分配が行われることとなった。
Fクラスには80ポイント加点。
対してCクラスは80ポイント減点。
Cクラスにはほとんどポイントが残らず、全員退学処分まであまり猶予ない状態となった。
しかしヨシュアを含めCクラスの全員が「これでいい」と粛々と受け入れ、ここからポイントを巻き返していくことを誓ったという。
流石は騎士道精神に溢れるヨシュアが率いるクラスなだけはあるよ。
一方、ポイントに相当な余裕の出来たFクラスは勝者の余裕で一気にダラダラと――とはいかなかった。
だってレティシアが許さなかったから。
彼女はすぐに「次の試験に備えましょう」と言って、気の緩みそうだったクラスメイトたちの気を引き締めてくれた。
流石は我が自慢の妻。
しっかり者である。
……ぶっちゃけ、個人的には少しくらいダラダラしたかったけど。
でもレティシアが頑張るなら俺も頑張る。
嫁にみっともないところは見せられないからな。
「次は期末試験か……。一体どんな内容になることやら――」
中間試験が既にあんな感じだったし――と俺が言おうとした、その矢先だった。
「――――あ、あの!」
突然、俺たちは声をかけられる。
「ん?」
「あら?」
くるりと振り向く俺たち夫婦。
すると――そこには一人の小柄な女子生徒が立っていた。
「い、いきなり話しかけてごめんなさい! あなた方が、アルバン・オードラン男爵とレティシア・オードラン夫人ですよね!?」
「えっと、そうだけど……」
そう答えると、女子生徒はかなり緊張した面持ちモジモジし――
「あ、あ、あの……お願いします! お二人の〝サイン〟を頂けませんかっ!?」
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